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狂気

猿飛佐助×武田姫


闇に浮かぶ、影。
職業病さながら、足音を忍んで近づく。
 
 

「・・・きれいな月ね」
 
数歩後ろまで近づいたとき。
目の前の人物から、声がかかった。
 
「さすが、姫さんだ。忍の気配もお見通しってね」
「あなたの気配だけは、どこにいても分かるのよ、わたし」
 
月を見上げたまま、そんなことを言う姫さんに。
それじゃあ、忍としてはまずいでしょ、と。
カラリ、とふざけてみる。
 
月から目をゆっくりと離し、姫さんはくるりと振り返った。
やわらかい笑みを浮かべて手招きをする。
俺は苦笑しながら、姫さんの隣に足を進めた。
 
 
「一介の忍が、一国の姫様と並ぶなんてね。ほんとに、変な国」
 
大将も、旦那も、姫さんも。
忍を構いすぎなんだよ。
 
「父上様も幸村も、あなたをただの忍だなんて、思ってないと思うわ」
 
もちろん、わたしも、ね。
 
 
“ふんわり”よりも、“凛”という言葉が似合う、姫さんの声。
冷えた月夜に、その声も吸い込まれていく。

 
「嫁いだ先では、ちゃんとその国のしきたりに従ってくださいよ」
 
抑揚のない俺の言葉にも、姫さんは顔色ひとつ変えない。
空気が、きん、と張り詰めていた。


 
「分かってるわ、そんなこと」
 
姫さんの言葉尻が、少し震える。
目を合わせたら終わりだ、と。
自分に必死で言い聞かせた。


 
 
「佐助」
 

姫さんの声が、俺の名を紡ぐ。
職務の合間にこの声を聞くのが、俺の何よりの安らぎだった。
 
 
「命を粗末にしては、だめよ。忍でも、わたしたちと同じ命。
 

だから、お願い・・・。どうか、いつまでも元気で」
 

 
きっと、姫さんは泣いていた。
必死で声に感情が出るのを堪え、前を見据えた姫さんの姿が頭に浮かぶ。
 
 


 
嗚呼、俺はひどい男だ。
 

翌日、屋敷から伸びる花嫁行列を屋根の上から見下ろして。
心底そう思った。
 
 

 
君が行く 道の長手を 繰りたたね
       焼き亡ぼさむ 天の火もがも
(天の火が欲しい。君がゆくその道を、焼き滅ぼしてくれるような天の火が、
 俺はどうしても欲しかった。)
 
たとえ、狂気の沙汰だと、恐れられても
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年齢:
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誕生日:
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