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花火 高杉晋作

「晋作、またお前はそうやって・・・。寝とらないけん、と言うたじゃろ」

昼下がり。
縁側で三味線をもてあそんでいたら、桂さんが庭先に顔を出した。

ごとり、と三味線を脇に置き、ひら、と片手をふる。

「やあ、桂さん。今日もまた、ええ天気じゃのう」
「桂じゃない、木戸だ。何べん言うたら分かるんじゃ」

やれやれ、といった具合で、俺の隣に腰をおろす。
手にはお土産のつもりか、まんじゅうの包み。

まったく優しいお方だ。

体の調子はどうだ、と桂さん。

「まずまずですよ。食って寝て、食って寝て。毎日なんも変わらんです」

こんなんじゃすぐ体がなまって、奇兵隊長の名が廃るってもんです。
そう言って豪快に笑って見せたが、桂さんは、そうか、と小さく頷くだけだった。






『晋作、これからの日ノ本は、わしらが率いていかないけん』

幼い頃より、勉学でも剣術でも、競い合ってきた、久坂。
あいつにだけは負けたくない、と、よく夜中にこっそり鍛錬を積んだ。
そんな久坂もひと足先に、志を抱き、散ってしまった。


「久坂は今、何をしちょりますかのう」
「あいつはどこにいても、一人で朗々を漢詩でも読んじょる」

何かを思い出したのか、桂さんがふと笑う。
そうですな、と俺もかわいた笑い声をあげた。




松陰先生のもとへ、俺を連れていってくれたのも、久坂だった。
まだまだ子供だった俺は、久坂への敵対心をいつもむき出しにしていて。
お前はどこで漢詩を習ったのだ、と詰め寄ったのだ。

今でも、忘れない。

“松下村塾”と、いびつな字で書かれた看板。
ひねくれて、回りにとげとげしい態度をとっていた俺に、松陰先生は一言。

『お前は、良い目をしちょるのう。いつか面白い事を、為す男になりそうじゃ』






「松陰先生の握り飯は、うまかったのう」

まんじゅうをほうばりながら、しみじみ言うと。
そうじゃの、と桂さんも頷く。

これで、いい。
高杉晋作、という男の人生は、面白くなくてはならない。

短くても、儚くても。
太く、濃く、豪快のものであるなら、俺は何も思い残すことはない。


「また来る」

夕日が差し込み始めると、桂さんはそう言って立ち上がった。

「ありがとうございます、桂さん」

俺に“また”なんて、やってくるのだろうか。
桂さんの後ろ姿が見えなくなると、俺は再び、三味線を手にとった。



おもしろき ことのなき世を おもしろく
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