桜の花びらが、またひとつ。
散って、小川に流れていった。
五年ぶりに見る、江戸の春。
昔とは、何もかもが違って見えた。
縁側で壁にもたれて座り込む。
「沖田さん、起き上がっても大丈夫なんですか」
俺の面倒を見てくれているこの家の娘が、羽織を手渡してくれた。
ありがとう、とそれを受け取り、肩にかけた。
そして再び、外をじっと見つめる。
五日前。
洋服に身を包んだ土方さんが、訪ねてきた。
「さすが土方さんだ。何を着ても、絵になるなあ」
「うるせえ。こっちのが動きやすいんだ」
調子に乗ってけらけら笑っていると、いきなりむせた。
ほらみろ、と言うように眉をしかめて、背中をさすってくれていた土方さんは。
俺のせきが治まると、突然真顔になって、一言。
“北へ行く”、と。
そうですか、と俺は小さく頷く。
連れて行け、とは言えそうになかった。
とても、体がもたない。
ちら、と部屋のすみに置いてある、愛刀に目を向けた。
京で幾人もの血をすった刀も、今では大人しく、鞘に収まっている。
「土方さん」
「なんだ」
「・・・俺も連れてってください」
会津でも蝦夷でも、あの世でも。
どこまでも俺は、あなたと同じ道歩くって、決めたんです。
今更、長生きしようなんて、思わない。
土方さんは頷くと、俺の刀を手に取り、腰に差す。
かわりに、と懐から、一冊の本を差し出した。
「豊玉発句集・・・見てもいいんですか」
問えば。
それこそ今更ってもんだろう、とかわいた笑いが返ってきた。
「・・・本当に、きざな人だ」
豊玉発句集の、一番初め。
“差し向かう 心は清き 水鏡”
新撰組に命の惜しい奴はいらねえって、豪語してたのは誰だったか。
「誰よりも早く走らないと、あなたに追いつけないじゃないか・・・」
ねえ、歳三さん。
頬を流れる涙のように。
桜の花びらが、またひとつ。
はらはらと、小川を流れていった。
動かねば 闇にへだつや 花と水
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五年ぶりに見る、江戸の春。
昔とは、何もかもが違って見えた。
縁側で壁にもたれて座り込む。
「沖田さん、起き上がっても大丈夫なんですか」
俺の面倒を見てくれているこの家の娘が、羽織を手渡してくれた。
ありがとう、とそれを受け取り、肩にかけた。
そして再び、外をじっと見つめる。
五日前。
洋服に身を包んだ土方さんが、訪ねてきた。
「さすが土方さんだ。何を着ても、絵になるなあ」
「うるせえ。こっちのが動きやすいんだ」
調子に乗ってけらけら笑っていると、いきなりむせた。
ほらみろ、と言うように眉をしかめて、背中をさすってくれていた土方さんは。
俺のせきが治まると、突然真顔になって、一言。
“北へ行く”、と。
そうですか、と俺は小さく頷く。
連れて行け、とは言えそうになかった。
とても、体がもたない。
ちら、と部屋のすみに置いてある、愛刀に目を向けた。
京で幾人もの血をすった刀も、今では大人しく、鞘に収まっている。
「土方さん」
「なんだ」
「・・・俺も連れてってください」
会津でも蝦夷でも、あの世でも。
どこまでも俺は、あなたと同じ道歩くって、決めたんです。
今更、長生きしようなんて、思わない。
土方さんは頷くと、俺の刀を手に取り、腰に差す。
かわりに、と懐から、一冊の本を差し出した。
「豊玉発句集・・・見てもいいんですか」
問えば。
それこそ今更ってもんだろう、とかわいた笑いが返ってきた。
「・・・本当に、きざな人だ」
豊玉発句集の、一番初め。
“差し向かう 心は清き 水鏡”
新撰組に命の惜しい奴はいらねえって、豪語してたのは誰だったか。
「誰よりも早く走らないと、あなたに追いつけないじゃないか・・・」
ねえ、歳三さん。
頬を流れる涙のように。
桜の花びらが、またひとつ。
はらはらと、小川を流れていった。
動かねば 闇にへだつや 花と水
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