「お初にお目にかかります。“いづる”と、申します」
以後お見知りおきを、と緊張気味に頭を下げる。
本文を読む
「若様、某の娘にございます。今年で十七に相成りました。
国親様より申し付けいただき、登城した次第にございます」
そのいづるとやらの、少し斜め後ろから、隼人がにこやかに言う。
眉間にしわをよせたまま、伏し目がちないづる。
まさか、隼人に、こんな娘がいたとはな。
驚きつつ。
なんてことないように、おう、と頷いた。
「張り切ってんな」
先程から。
廊下を何度も行ったり来たり。
雑巾がけをしているいづるに、声をかけてみる。
いきなり声をかけられたからか。
はたまたそれが、俺だったからか。
いづるは顔を上げると、これでもかと言うほど目を見開いた。
吸い込まれそうな黒目で、二三度瞬きをすると。
ぱっと目を伏せた。
「も、申し訳ございません!!
まさか若殿様が、お部屋にいらっしゃるとは・・・!」
とんだ御無礼を・・・!と。
みるみるうちに、青くなる。
おいおい。
なんでそんなに怯えられてんだ?俺は。
どうして謝る?
問えば。
足音、騒がしくしてしまいましたから、と。
今にも泣きそうな顔で、答えてる。
「そんなことで、怒ったりしねえよ。むしろ、感謝してんぜ」
「しかし、無礼を働いてはならぬと、ち、父上が・・・」
そこで。
ああ、と合点がいった。
ため息まじりに、苦笑する。
「そんなに怖いのか。お前の親父は・・・」
ビクっと。
明らかにいづるは反応して。
・・・瞳いっぱいに涙がたまる。
大方、粗相でもしたら説教だ、とでも言われてんだろう。
完全にうつむいてしまった、いづるの前にしゃがみ込み。
同じ高さになった頭を、ポンポンと撫でてやる。
「若殿様・・・?」
「大丈夫だ。
隼人に説教されそうになったら、俺がなんとか言ってやんよ」
「まことにございますか?!」
「おう。
それと、若殿様、はやめろ。くすぐったくて、しょうがねえ」
元親、だ。
揺れる瞳をのぞき込めば。
元親様・・・?と。
遠慮がちに顔をあげた。
おうよ、と返事をして。
ニカっと笑えば。
少し安心したのか。
目に涙をためたまんま、控えめな微笑みが返ってきた。